トライボロジーとは
トライボロジー(Trybology)、あまり聞き慣れない言葉かも知れません。ギリシャ語で「摩擦」を意味する「Tribo-」と「学問」を意味する「-logy」をあわせた言葉で、直訳すれば「摩擦学」ということになるでしょうか。摩擦や潤滑、摩耗といった物と物が接する場所で起きる現象についての総合的な科学や技術を表す言葉です。
摩擦はとても身近でありふれた存在です。摩擦が無い世界というのはちょっと想像できません。ありとあらゆるものがバラバラになり、私たちの体すらその形を維持することはできないはずです。摩擦はこの世界に欠くべからざる、あらざるを得ない重要な物理現象の一つです。しかし、その様相はまだ良くわかっていません。改めて考えてみると、そこに非常に複雑で豊かな世界が広がっていることに気づくでしょう。
たとえば、タイヤを例に上げましょう。当然ながら、タイヤの機能「曲がる」「止まる」「走る」のすべてに摩擦は関わっています。でも、それぞれの局面で摩擦の作用の仕方はまるで違います。曲がったり止まったり加速したりするためには、タイヤは道路をしっかりととらえなければなりませんから、摩擦は大きい方が好都合です。でも、効率よく走るためにはタイヤは軽く転がらなくてはいけません。この一見相反する性質をどうやって両立させればいいのでしょうか?
あるいは、素材の上に潤滑油が乗っているところを想像してみてください。潤滑油と素材が接している場所で起きていることと、少しはなれば場所で油の振る舞いは違います。それは素材の表面の材質や状態でも変わり、また潤滑油の組成や密度、温度、圧力等によっても違います。さらに、目に見えるような油と素材の振る舞いから、それらを構成する原子や分子の構造まで、それぞれのスケールで起きていることが全く違います。これらの現象を総合的に捉えるためには、単に表面だけを観察しているだけではわからないことがたくさんあるのです。
物と物が触れ合っている界面では、しばしば相反する現象が同時に起き、私達の目に見えるマクロの世界から分子や原子といったミクロの世界まで、様々なスケールの現象が複雑に絡み合って全体の現象を形作っています。その全体像を知るためには、一ミリの数十億分の一というナノスケールの世界で起きている現象を、物と物が触れ合った状態のまま観察することが必要です。そしてこの世界で何が起きているか、その全貌は未だ明らかにはなっていないのです。